最終更新日: 2023年08月01日
私たちの健康維持に欠かせないミネラル、みなさんは何を思い浮かべますか?
なんだか身体にいいもの、食事で気を付けて摂らないといけないもの、などのイメージがあるかと思います。生命の維持に必要なミネラルを「必須ミネラル」といいます。貧血や美容と関連して紹介されることの多い「鉄」も実はミネラルの一種なのです。今回は、身体に必要不可欠な「鉄」についてご紹介したいと思います。
脳神経内科医として浜松医科大学で長年勤務された 宮嶋裕明先生(浜松医科大学名誉教授)へのインタビューをもとに連載記事として掲載いたします。
医師 宮嶋裕明 先生
浜松医科大学名誉教授
浜松医科大学で40年間脳神経内科医として勤務
微量金属代謝異常(鉄代謝、無セルロプラスミン血症)やビタミン異常症に伴う神経疾患領域が専門
現在は、浜松の天竜厚生会診療所にて認知症をはじめとした診療を行っている。
宮嶋先生、本日は「鉄」について詳しく伺います。よろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
「鉄分を取らないと貧血になる」ことは一般的ですが、具体的に「鉄」はどのような働きをしているのでしょうか?血液のもとになっている認識はあるのですが…。
鉄は、身体にとってとても大事な働きをしています。
まず、血液の中には、赤血球という酸素を運ぶ細胞があるのは聞いたことがあるかと思います。赤血球の中にはヘモグロビンというタンパク質が含まれていて、このヘモグロビンの中心部に鉄が存在しています。ヘモグロビンは鉄のおかげで酸素をくっつけたり、離したりすることができるので、肺で取り込んだ酸素を全身すみずみまで運ぶことができます。
鉄は、全身に酸素を運ぶ大切な働きがあるのですね。
そうですね。身体の中の鉄のうち、65%が赤血球の中に存在していると言われています。
ヘモグロビンによって運ばれた酸素は、筋肉に渡され、身体を動かすためのエネルギーを生むのに使われます。血中の酸素を筋肉に渡す役目をするのがミオグロビンです。
ミオグロビンの中心部にも鉄が存在しており、これは体内の10%程度の鉄を占めると言われています。
残りの鉄はどこに存在しているのでしょうか?
ヘモグロビンやミオグロビンなどに含まれる鉄は「機能鉄」と呼ばれていますが、残りの20~30%の鉄は「貯蔵鉄」として備蓄されています。
貯蔵鉄は主にフェリチンというタンパク質に結合しており、鉄の予備があるかどうかは、フェリチン量を検査することで確認することができます。
生命の維持に必須の鉄は、不足しないようにバックアップが準備されているのですね。
その通りです。私たちは、日々の食事から1~2㎎程度の鉄を摂取しています。しかし、体内のヘモグロビンやミオグロビンを作るのに必要な鉄の量は、その何十倍にも及ぶと言われています。
鉄が全然足りてないと思いますが、大丈夫なのですか?
大丈夫です。もちろん食事で鉄を摂ることは大事ですが、私たちの体内では、常に鉄がリサイクルされています。
赤血球の寿命はだいたい120日(4か月)と言われていますが、役割を終えた赤血球は、体内で壊されて鉄が取り出されます。この鉄を使って新しい赤血球が再生されます。このリサイクルが1日4~5回ほど行われることにより、私たちは少量の鉄を摂るだけで生きていけるのです。
鉄がリサイクルされているなら、鉄不足になることはないような気がします。
鉄は、全身の細胞の中にも存在しています。私たちの消化管の粘膜や皮膚は、毎日古い細胞が剥がれ落ち、新しい細胞と入れ替わっています。このため、リサイクルされる鉄以外の粘膜や皮膚に含まれる鉄は体外に出ていってしまいます。そこで私たちは毎日1~2㎎の鉄を食事から摂取しなくてはなりません。
上手くバランスが保たれるようになっているのですね。
そうですね。ヒトは、体内の鉄を積極的に外に排出する機構を持ちません。鉄以外のミネラル(亜鉛やカルシウム)は、爪や毛・尿などで排出されていきますが、鉄は摂れば摂るだけ溜まる傾向があります。ですから、鉄不足が不安だからと、むやみやたらに鉄サプリメントを飲んでしまうと鉄過剰になってしまい、健康を損ねてしまいます。
何事もバランスが大事です。
沢山摂れば良いと思っていました…貧血でないならサプリメントは不要なのですね。鉄が十分に足りているのに鉄サプリメントを摂ると逆に不健康になってしまうなんて知りませんでした。
ただ、日本人は全体的に鉄が不足していると言われていますし、特に成長期の子供や、月経のある若い女性は、積極的に鉄を摂った方がよいと思います。
食事で鉄が十分に摂れる方は良いですが、現状貧血気味の方は、食事だけでは難しいのでサプリメントで補填するのも良いと思います。
もし、息切れや身体のだるさ、頭痛やイライラが続くようなら、鉄不足から来る貧血の場合がありますので、治療も必要になります。
一方、閉経された方や男性は、良かれと思って鉄を積極的に摂ると、鉄過剰になることもあります。鉄は酸化する(錆びる)ので、過剰な鉄は、老化を進めてしまったり、がんになりやすくしたりします。
妄信的に「鉄は大事!」と思ってサプリメントを飲み続けるのではなく、定期的に血液検査をして、貧血になっていない方はさほど鉄を意識した生活はしなくても大丈夫です。
成長期のお子さんや、月経のある女性は、食事やサプリメントで鉄不足にならないように気を付ける必要がありますが、男性や閉経された方がむやみやたらに鉄を摂取するのは病気の原因になってしまうということですね。
次回は、鉄が関連する病気について伺います。お楽しみに!